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岐阜地方裁判所 昭和36年(ワ)353号 決定 1961年12月15日

原告 富士変速機株式会社

被告 合資会社田辺製作所

主文

本件を名古屋地方裁判所に移送する。

理由

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金五二万円及び内金二八五、〇〇〇円に対しては昭和三四年一〇月一一日から、内金二三五、〇〇〇円に対しては同月一六日からそれぞれ支払済まで年六分の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として陳述した事実の要旨は、

「被告は原告に対し昭和三四年六月三〇日、(1) 金額二八五、〇〇〇円満期昭和三四年一〇月一〇日、支払場所株式会社住友銀行津島支店、支払地振出地共に津島市、(2) 金額二三五、〇〇〇円、満期昭和三四年一〇月一五日、その他の要件は(1) に同じ、の各約束手形を提出し交付し、原告はその所持人としてそれぞれ右各満期に支払場所に之を呈示したがその支払を拒絶されたので、原告は被告に対し右手形金合計金五二万円及び右各手形金額に対する各満期の翌日から完済まで年六分の遅延損害金の支払を求める為本訴に及んだ。」というのであるが、なお、本件手形金の不払による遅延損害金債務は持参債務であるから、その履行を求める請求は原告の肩書営業所の在る地を管轄する当裁判所の管轄に属し、従つて之と併合提起された手形金の支払請求も亦その管轄に属する。仮に本件につき当裁判所が管轄権を有しなかつたとしても、陳述したものと看做された被告の答弁書には管轄違の抗弁の記載がないから、被告の応訴により当裁判所に管轄権を生じたものである。」と述べた。

よつて本件に対する当裁判所の管轄権の存否につき考察する。

(一)  原告は、手形金の不払による遅延損害金債務は持参債務であると主張するけれども、右債権は之を手形金債権と分離して移転することが不能ではないとしても、このような特段の事情のない限り手形金債権に附随する従たる権利として之と運命を共にし、手形の交付によつて移転され、従つてその行使には手形の呈示を要する取立債権であると解すべきである。けだし手形金債権は手形なる証券に化体した権利としてその移転は手形の交付によつて為され、その行使には手形の呈示を要するのであるから、手形金の不払によつて手形債権者たるその所持人の為に生ずべきき遅延損害金債権につき法律上別異の取扱を為すべき何らの根拠も必要も存しない。この事は等しく手形金の支払拒絶によつて生ずる手形法所定の利息金債権の移転及び行使が手形の交付及び呈示によつて為される点に鑑みても容易に理解され得る所である。

よつて右遅延損害金債務が持参債務であることを前提とし、原告の肩書営業所の在る地を管轄する当裁判所が本件につき管轄権を有するとの原告の主張は之を採用することができない。

(二)  陳述したものと看做された被告提出の答弁書には管轄違の抗弁の記載がないことは原告主張の如くであるが、もともと被告は管轄権のない裁判所に出頭する必要はなく、又現実に何ら弁論をしていないのであるから、本案に関する事項を記載した答弁書がたまたま陳述したものと看做されたからと云つて、民事訴訟法第二六条の規定の適用を受けるいわれはないと云わなければならない。

よつて右規定の適用により本件につき当裁判所の管轄権が生じたとの原告の主張も採用に価しない。

(三)  本訴請求に係る手形金及びその不払による遅延損害金の債権が取立債権であること前説示のとおりであり、本訴提起当時の被告の営業所が愛知県海部郡立田村であることは記録上明白であるから、本件訴訟は当裁判所の管轄に属せず名古屋地方裁判所の管轄に属するものと認め、民事訴訟法第三〇条第一項の規定を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小西高秀)

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